藝術学関連学会連合

第14回公開シンポジウム(2019)「アマチュアの領分 過去・現在・未来」報告


 2019年6月8日(土)に,国立国際美術館において,藝術学関連学会連合主催 第14回公開シンポジウム『アマチュアの領分:過去・現在・未来』が開催されました。
 本学会からは『第2部 アマチュアの現在』におけるシンポジストとして,神野真吾氏(千葉大学)が登壇し,長田謙一氏(首都大学東京)が司会を務めました。

 第2部の骨子は以下の通りです。

 「アマチュアをどう養成していくか、アマチュアはどう発生するか、プロ-アマの構図をどう見直していくのかといった問題点について議論します。各芸術分野がいま現在かかえている問題について比較検討をおこないます。」(フライヤーより)

 神野氏の発表テーマは『プロ/アマの境界のシフトと社会的認知のズレ』です。

 その様子を,神野氏,長田氏よりご報告いただきました。


芸術学関連学会連合第14回公開シンポジウム(2019)「アマチュアの領分 過去・現在・未来」報告

神野真吾(千葉大学)


 さる6月8日、国立国際美術館で開催された藝術学関連学会連合が主催するシンポジウムに美術科教育学会を代表して参加させていただいた。本年度のテーマは「アマチュアの領分」。このテーマ設定の背景や、そこで展開された議論などは、長田謙一先生のご報告に委ね、私は自身の発表内容についてご報告させていただく。「プロ/アマの境界のシフトと社会的認知のズレ」と題し、以下のような発表を行なった。
 プロフェッショナルとアマチュアの境界は、時に緊張を伴いながら常に更新され続け、その中でプロとアマそのものが問い直されてきた。現代において美術のプロとは誰であるのか?どのような資質や能力が求められているのか?それを問わなければ、アマチュアを価値づけること自体が意味をなさない。現代の美術では、 技術ではなく、文脈とセットで示されるアイデアと実践のユニークさが評価されている。近年注目されているソーシャリティ・エンゲージド・アートはその文脈に「社会」を設定しているものだと言える。こうした状況は、普通教育としての美術科で考えるなら、評価の観点の一つ「発想構想の能力」の重視と重なるものだ。ついでに言えば、ソーシャリティ・エンゲージド・アートの展開は、「社会に開かれた教育課程」という課題と対応しているとも言えるだろう。
 さて、発想構想の能力が現代の美術においては最も重要であるとするなら、アマとプロの違いは誰が見ても明確に現れるような性質のものではなく(技術ではなくアイデアなので)、或るものを価値があるものとして示すその示し方によって決定されるとも言えよう。そこにプロフェッショナル性が求められているのが現代の新たな境界線なのだ。
 そこでは新たな課題も生じる、「価値あるものとして示す示し方」と前に書いたが、それは誰によりどのように実行されるのかということだ。美術の世界では、そうした存在はキュレーターと呼ばれ、その行為がキュレーションと呼ばれるが、多くの場合、判断の根拠はアカデミックな言説に拠る。そこで問われるべきは、アマチュアをアカデミックな言説で語ることで、誰がどのような利益を得ているのかだ。障害者のアートをはじめとするアウトサイダーアートで考えてみれば分かりやすい。アマチュアの側に明瞭な利益がなく、アカデミックな側に立つ者がもっぱら利益を得るということであるとしたら、それは正当化できるのだろうか?これは学校教育に置き換えることも可能だろう。この状況は新たな倫理の問題として考えるべきものであるかもしれない。以上が私の発表の骨子である。
 私の責である美術科教育からの問題提起としては充分ではなかった点には少し心残りもある。また、シンポジウムでは残念ながらこの議論が深められたとは言えず、反省点も多かった。ただし、本学会が、現場を持ってアクチュアルな課題を設定し議論をしてきたことは大きな強みであることを強く確認する機会であった。このことは個人的には大きな成果であった。



芸術学関連学会連合第14回公開シンポジウム(2019)「アマチュアの領分 過去・現在・未来」報告

長田謙一(首都大学東京)


 藝術学関連学会連合(日本学術会議 協力学術研究団体)は、参加諸学会連携/越境研究討議の場として毎年公開シンポジウムを開催してきた。その第14回目にあたる2019年度シンポジウムが「アマチュアの領分 過去・現在・未来」をテーマとして、6月8日(土)、大阪の国立国際美術館講堂に於いて開催された。
 近代社会において「プロ/アマ」という相補的集団が形成され、その両者相俟って文化の広がりを形成してきたが、その相補的一項であるアマチュアはこれまで積極的に注目されることがない。しかし、両者の境界、さらには両者を包括する諸ジャンル、究極的には<芸術>それ自体の輪郭までをも揺るがせ問題化していく現代社会のなかで、「アマチュアの領分」は諸問題総体を一気に問題化する核を提示するのではないかという問題意識の基層に据えて組織された本シンポは、第1部 アマチュアの歴史 に「 照らされたドメスティック・クラフツ」山﨑稔惠(服飾美学会|関東学院大学)、「 農民美術におけるアマチュアの性質」石川義宗(日本デザイン学会|長野大学)、「〈芸術家〉になれなかった山下清」服部 正(美術史学会|甲南大学 )、第2部 アマチュアの現在に「地芝居に見る〈アマチュアの領分〉舘野太朗(日本演劇学会|横浜いずみ歌舞伎保存会)、「 ポップカルチャーから見る〈よさこい系〉」秋庭史典(美学会|名古屋大学)、「 プロ/アマの境界のシフトと社会的認知のズレ」神野真吾(美術科教育学会|千葉大学)の各報告、第3部 アマチュアの未来(討議)で構成され、いずれも問題の重要相を照らし出し、藝関連ならではの多角的視点から問題をとらえる場の重要性を改めて示すものとなった。
 本学会からは今期藝関連担当となった神野真吾理事が報告者として、近代日本の美術のプロ/アマ境界の形成とその変容と美術教育の屈折した関係、とりわけソーシャリー・エンゲイジド・アート含む現代美術展開を視野に入れたときの錯綜を提示し、第2部司会として前期藝関連担当理事長田が、社会システム芸術下のプロ/アマ関係と同関係とは異なる次元から提起された美術教育理念という問題枠組みの提示を行ったほか、山木代表理事はじめ参加した会員から熱心な質問・発言が行われ、今回テーマ提案集団の中からは、本学会問題意識が寄与するところの重要性を指摘する声が聞かれた。